気管支喘息
気管支喘息はどんな病気?
空気が鼻や口から入って肺胞に達するまでの通り道を「気道」といい、喘息は気道の炎症(ただれ)によっておこる病気です。気管支粘膜の慢性的な炎症が起きるために、気管支が過敏(気道過敏)になります。そして様々な刺激(アレルギー物質、ウイルス感染、冷気等)によって、気管支を取り囲む筋肉が収縮したり、気管支の粘膜が腫れたり、痰が分泌されたりして気管支の内腔が狭くなります(気道狭窄)。これが喘息発作といわれる状態です。
発作時はとても苦しくても、一旦治まると普段と変わらない状態となります(可逆性の気道狭窄)。しかし、発作が起こっていない時にも、喘息患者さんの気管支には慢性的に炎症が続いているため、症状がないからと治療せずに放置していると、気管支の壁が厚く硬くなっていき(リモデリング)、徐々に肺の機能が低下し、重症化して難治性となります。
喘息は近年増加してきています。
小児・成人ともに有症率は、1960年代では人口の1%程度でありましたが、最近では小児では11~14%、成人では6~10%程度と増加しており、ほぼ10年毎に1.5倍程度の増加を認めています。発症年齢は、小児では乳幼児に多く、成人では中高年の方に発症することが多いとされています。
気管支喘息の症状
主な症状は、咳や痰、喘鳴(ぜんめい)、呼吸困難などです。
突然の咳き込み、呼吸困難、息を吐くときにヒューヒュー・ゼーゼーといった音がする(喘鳴)などが主な症状です。そのほかに、胸の痛み、のどがイガイガする感じ、ちょっとした刺激(冷たい空気・長話・ほこりやたばこのけむり・香水の匂いなど)で咳き込むなども喘息の症状の可能性があります。症状は特に夜間から明け方に起こりやすくなります。
気管支喘息の原因
喘息発症の原因はアレルギーだけではなく、様々な要因が関係しています。遺伝的要因、肥満、住宅環境の変化、生活習慣の変化、室内でのペット飼育(犬、猫、ハムスター、ウサギなど)、ダニやカビ胞子や様々な化学物質の増加、大気汚染やタバコの影響、食の欧米化、多種類の食品添加物、風邪や鼻炎など様々な要因が考えられます。
一旦発症した喘息が悪化する主な誘因(喘息発作の引き金)は下記のようなものが知られています。
- アレルギー(ダニ、花粉、カビ、ペットなど)
- 大気汚染(排気ガス、暖房器具などからの二酸化窒素、ホルムアルデヒドなど)
- ウイルス感染症(風邪、インフルエンザ)
- 運動や過換気
- 喫煙
- 気象の変化(台風などによる気圧の低下、前日との気温差、黄砂)
- 食品・食品添加物
- 薬物(解熱鎮痛剤、高血圧治療薬など)
- 激しい感情変化とストレス、過労(心理的ストレス、身体疲労)
- 刺激物質(タバコなどの煙、香水や生花などの強い匂い、湯気などの水蒸気)
- 二酸化硫黄(大気汚染や温泉)
- 月経・妊娠
- 肥満
- アルコール
- 鼻炎
小児の喘息では9割がダニなどのアレルギーが原因で悪化するのに対し、成人の喘息ではアレルギーが原因となるのは6割程度です。成人の約4割は、アレルギーとは関係なく風邪やストレスなどが原因で悪化します。またアレルギーが原因で喘息が悪化する方も、風邪やストレスでも悪化することがあります。
気管支喘息の検査と診断
一般的には、問診、気管支の内径の変化や他疾患の鑑別をもって行います。問診では症状や、症状の出現時期・時間が重要になります。
典型例では呼吸困難、喘鳴、胸苦しさ、咳などの症状が、発作性に出現し、繰り返します。特に風邪をひいたときや、掃除などでほこりを吸った後、疲労やストレスが続いた後に起こりやすく、夜半・明け方や季節の変わり目に出現しやすいといった特徴があります。
症状は日中には軽減し、医療機関を受診した際には何ともないということもあります。このように喘息は自然に、あるいは治療によって改善が得られるといった特徴もあるので、呼吸機能検査やピークフローメーターなどを用いて気管支内径の状態を評価します。喘息の本態である気道炎症の指標として、喀痰中または血液中の好酸球という細胞の増加や、呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)測定も参考になります。またアレルギー体質の有無や、原因アレルギー物質の特定を血液検査などで行います。また同様の症状を呈することのある心不全、COPD(タバコ病)、結核などの感染症、気道異物など他疾患を鑑別するために、血液検査、心電図検査、レントゲン検査が必要になる場合があります。
気管支喘息の治療方法
喘息治療の目標は、症状のコントロール(喘息症状や発作がない状態を維持する)と、将来のリスクの回避(呼吸機能の低下・喘息死・治療薬による作用などからの回避)です。その目標達成のために、喘息治療は悪化要因を特定し、原因を除去することから始まります。ダニアレルギーの方はダニ対策が重要ですし、イヌやネコのアレルギーの方は、イヌやネコに近づかないような生活が大切になります。アレルギー以外にも、発作を起こした時の状況から誘因を推測し、その誘因を回避することも大切になります。喘息の悪化要因は一つではありません。喘息をきちんとコントロールしていくためには、悪化要因に気付き改善していくことが重要になります。当院ではアレルギー検査や喘息日誌などを活用して、患者さんひとりひとりの増悪因子を探し出し、その対策をご説明させていただいております。
悪化要因を避けることと同時に重要なのが、薬物治療です。大きく分けると「長期管理薬」と「発作治療薬」の二つがあります。「長期管理薬」は喘息の根本原因である気道炎症を抑えて症状が起こらないようにする薬です。長期管理薬で加療をしていても発作を起こした場合や、症状が出そうになる場合に臨時で使用するのが「発作治療薬」です。
「長期管理薬」で主に用いられる薬は、抗炎症効果の高い吸入ステロイド薬です。体内で吸収され全身に作用する内服薬と異なり、吸入薬は直接気管支に到達し、その場で炎症を抑えますので、少量で効果も高い薬剤であり、全身性の副作用もほとんど心配がありません。吸入ステロイドのみでは効果不十分な場合には、長時間気道を広げる効果を有する長時間作用型β2刺激薬(吸入薬、貼付薬、内服薬)や、気管支拡張作用と気道炎症抑制効果を併せ持つロイコトリエン受容体拮抗薬(内服薬)を併用します。そのほかに抗アレルギー薬(内服薬)、徐放性テオフィリン薬(内服薬)、抗IgE抗体(注射薬)などを用いる場合もあります。
「発作治療薬」で主に用いられる薬は、短時間作用型吸入β2刺激薬です。発作時には気管支が狭窄して窒息する危険性がありますので、一刻も早く気管支を拡張させる必要があり、即効性のある気管支拡張剤を吸入します。発作治療薬の使用時におけるポイントは、発作が起こりそうな場合や起こってすぐに使用することです。患者さんの中にはもう少し我慢したら良くなるかも知れないと考え、使用しない方もおられますが、調子が悪い時には早めに使用することをお勧めします。大火事(致死的な発作)になる前にボヤの状態で火(発作)を消しさることが大切です。そして、症状が改善しない場合には発作治療薬を何度も使用し続けるのではなく、すぐに医療機関を受診するようにしましょう。また発作治療薬を週に何度も使用しないといけない状況の場合には喘息コントロールは不良と考えられますので、早めに主治医と相談するようにしましょう。
その他の発作治療薬として、ステロイド薬の内服もしくは点滴を短期間行うことがあります。急性発作時に使用するステロイドは短期間のみの使用でありますので、副作用が問題になることはほとんどありませんが、副作用予防と適切な治療効果を得るために、主治医とよく相談し、服用方法をお守りください。
気管支喘息の日常生活における注意点
喘息は発作出現時には非常に苦しいのですが、一旦治まってしまうと健康な人と何ら変わりのない状態になります。そのため、喘息も治まったと思い、勝手に治療を中断される方や、薬を減らされる方がおられますが、気道の炎症は症状がなくても持続していますので、症状がなくなっても適切な治療を継続することが何よりも大切です。吸入ステロイドが使われるようになり、救急外来を受診される方が非常に減少し、さらに喘息発作で命を落とされてしまう「喘息死」の患者さんの数も、年々減少してきています。吸入ステロイドが普及するまでは年間7000人もの方が喘息で命を落とされていましたが、最近は1800人弱まで減ってきております。適切な治療の継続が重要です。
継続治療と同時に悪化の誘因を避けることも大切で、アレルギーをお持ちの方はそのアレルギー物質から避けること大切です。タバコを吸われている方は、タバコ煙による気道の炎症が加わることと、治療薬の効果が半減することから、禁煙が大切になります。風邪をひかないように、また疲労・ストレスをため込まないように、暴飲暴食を避けたり、睡眠不足を解消したり、規則正しい生活も重要になります。
症状がない状態でも気道粘膜の炎症は悪化している場合があります。発作に至る可能性のある誘因に気付くためにも、ピークフローメーターを用いた喘息の自己管理を行うことをおすすめします。その日の自身の気道状態を少しでも正しく知ることで、健康で安全な日々を送っていただけるようになります。患者さんごとに異なる様々な注意点がありますので、かかりつけ医とよく話し合い、治療を継続していくことが発作予防や、良好な喘息治療につながっていきます。
ピークフローメーター・喘息日誌
気管支喘息は、大半の方(9割くらいの方)は現在のところ完治させるのが困難であります。しかし症状をコントロールして快適な日常生活を過ごすことは可能であります。そのために、患者さん自身が現在の気道状態(気道が狭くなっていないか)を把握し、追加治療が必要かどうかの目安を知っていただくことが必要になります。
まずは症状がどうかということが大切です。この症状は咳き込む、呼吸がヒューヒューいう、息苦しいといったものだけではなく、胸が痛い、冷気で咳が誘発されるといったものも含みます。
こうした状態を喘息日誌に記入していただくことで自分の気道状態に対する意識付けにもなります。また、気道が狭くなってきていても症状が少ない方もおられますので、ピークフローメーターという家庭で手軽に使用できる器具を用いて、ピークフロー値を測定することをお勧めします。
ピークフロー値とは、目一杯息を吸った後に、一気に“フー”っと吐いた時の最も速い呼気速度のことを言います。自宅で息を吹きかけるだけで、ご自身の気道状態を具体的な数値で知ることが出来ます。通常、このピークフロー値は日内変動が認められ、午前4~6時頃が最も低くなり、午後4時~6時頃が最も高くなります。
この数値を症状と共に喘息日誌に記入していただき受診時に持参いただくことで、喘息コントロール状態(喘息の重症度や治療効果)を適切に判断することが可能となります。さらに数値の変動状態により、自宅での対処法や病院受診のタイミングなどの指導を受けることが可能になります。